雨が降ると、どういうわけか体がだるくなる。
それに伴い、気分が沈んでしまう。
その日は予定が何もなかったが、なんとなくカフェミクニズに出かけた。
一時期、街をさまよっていた。
何の目的もなく、大きなターミナル駅に行き、駅周辺をふらふらしていた。
何かから逃げたかった。何かに救いを求めていた。
「何か」の正体は、いまだ不明だが、自分のことを知らない人たちの中で、漠然と歩きまわることで心の平穏を保っていた気がする。
雨に濡れたカフェミクニズは、ランチタイムのピークが過ぎたこともあり、緩やかな時間が流れていた。
食べたかったモンブランは売り切れだった。
まあ売り切れていることもあるだろうなあと思っていたので、がっかりはしなかった。
季節のタルトとピュイダムールをいただいた。
季節のタルトは桃である。香ばしいタルト台。
「愛の井戸」の名を持つピュイダムール。カフェミクニズらしく、酸味ある変わったピュイダムールだった。
ピュイダムールの水面はリュバーブで覆われていた。
カフェミクニズの小さな中庭はいつもより静寂が濃いような気がした。
この静寂が欲しさに、カフェミクニズに来たのかもしれない。(もちろん美味しいケーキも食べたくて)
客席では静寂だが、中庭越しに見える厨房は緩やかとは程遠い状態だった。
中庭をはさんで、別世界を見ているようだ。
生きていると晴れの日もあれば、雨の日もある。
心も同様である。
晴れの日には晴れの日の、雨の日には雨の日の愉しみ方がある。
街をふらふらさまよっていた、あの時期があったから、いま自分はどんな時も、なんとでもやれるようになれたのだと思う。
次来るときはモンブランに会いたい。