お菓子には力がある。

自粛の中、シャンドワゾー本店へ向かった。
シャンドワゾーさんは外出自粛の時期、完全に休業はせず縮小営業をしていた。

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シャンドワゾーへ行くついでに周辺を散歩。ツツジが栄えておりました。

本店は品数を控えながらも開いており、縮小営業とはいえ、人気店。
人は絶えず、入場規制と予防策を徹底するため、お店の前には列ができていた。

列に並んでいる合間、白いブルドックを連れた年配の男性が、店舗前をうろうろしているのが目に入った。

どうやら男性は、犬と散歩がてらシャンドワゾーの前を通り、初めてケーキを買おうとしているようだった。
犬を連れているため店舗に入ることはできず、入り口前で店員さんとやりとりしての購入となった。
お買い物中、ブルドックは隙を見ては、シャンドワゾー店内に入ろうとしていた。
白ブル氏「フンッフンッ!!」(鼻息)
男性氏「こら!待ちなさい!あ、おいくらですか?」
その熱き攻防戦に、思わず笑ってしまった。
「美味しい匂いがするんでしょうねえ」と男性に話しかけると、男性も笑いながら「いやー、いい匂いに(犬に)連れられてきちゃいまして。」と答えた。
いい匂いに引き寄せられたのは、わたくしも、である。

厨房では業務用の大きな冷却バッグを抱えた村山シェフがいるのが見えた。
デリバリーの帰りだろう。
その後もスタッフと何か話していた。

わたくしの思い出話をする。
父上様の闘病生活終了後、それまでひきこもりであった自分は、社会復帰のために仕事を始めた。
といっても、リハビリ的な短期のバイトである。
川口にある印刷工房の年賀状印刷の仕事だった。
知らない人の中で数時間の作業は、元ひきこもりにとってハードだった。
明日はもう行きたくない。無理。
そういう日の帰りに(というかほぼ毎日)、ちょっと遠回りしてシャンドワゾーに寄った。
冬の寒い夜に、ホワっと浮かぶ白いファサード
買うのは必ず、マドレーヌシトロン。
ふわふわのマドレーヌに、レモン味のシュガーコーティングをほどこした一品。
レモンのキュンとした酸味と豊満なバターの風味が、くたくたの身体に沁みた。
こんなに美味しいお菓子がこの世にあったのか。
翌日も何とか出勤して、期間中、休むことなくバイトを終えることができた。

なぜか、その思い出がこの期間に記憶からよみがえった。
おおげさではなく冬のあの日、わたくしはシャンドワゾーに寄ることで復帰への第一歩を歩んだのである。

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レモンシュガーのジャケットをお召しのマドレーヌシトロン様。


ケーキは4個と7個セット販売のみ。
年配の男性は7個セットを買っていた。
きっと男性は白ブル氏と共に家に戻るや否や、家族に「ケーキ買ってきた!」と笑顔で言うことだろう。
家族への、とっておきのお土産。
ドアのチャイムが鳴り、宅配のお菓子が家に届く。
ネットではオンラインショップの焼菓子やアントルメ(アイスケーキ)が届いた人の画像をいくつも見かけた。
ガトーのデリバリーでは、ドアを開けると村山シェフ本人がいて驚いたという声もみた。

小さなお菓子一つにも、人を幸せにする力がある。

わたくしも一人おうちで、とっておきの幸せを4つもムシャったのであった。

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4つセット。