愛する君に桃を捧ぐ

桃のシーズンである。
桃は、ワタクシの愛する亡きお犬様の大好物であった。

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世間はお盆シーズン。
お盆は、自分に所縁の深い人が「あちら」から一時的に「こちら」へ滞在するそうな。
ならば、お犬様へ桃をご馳走してあげようとスーパーで結構なお値段の桃を買った。

一個400円、したがって800円。
自分だけならもう一段低いグレードの桃を買うが、愛するお犬様へケチる気はない。

つるんと剥けたよ桃ふたつ。


ふた皿に分け、お犬様の写真の前で一緒にいただいた。

みずみずしい桃をいただいていると、なぜか過去の記憶が蘇ってきた。

ワタクシは昔、心が病んでヘロヘロのヘロになっていた時期があった。
一人暮らしのアパートで、起き上がるにも精一杯なその時、突如電話がかかってきた。
父上様だった。
処方されたお薬が効いてフラフラのフラで、何を話したか覚えていないが、父上様に「大丈夫か?」と聞かれ「もうダメかもしれない。」と答えたのだと思う。

電話を切って数十分、父上様がアパートの玄関先に現れた。
お犬様を抱っこして。
「おざさと。!お犬様連れてきたぞ!」
父上様はペット禁止のアパートにお犬様を解き放った。
久しぶりにワタクシに会えたのが嬉しいのか、お犬様はキャッハーとアパート狭いキッチンで、めっちゃ騒がしげにタップダンスをはじめた。
フローリングにチャカチャカ響く四つ脚タップ音。
ちょっっっ………おとっつあん!?お犬様ぁ!?
ぐわんぐわんする頭で(フローリング、お犬様の爪で原状回復もう無理かも)と思ったのを覚えている。
ワタクシはそのまま身一つで父上様に回収され、実家でしばらく休養した。

父上様、あの狭いアパート前の道を、車で傷一つ付けることなく行き来したとは何というドライブテクだ。(父上様は二種免許持ち)
お犬様、確かあの時一年ぶりくらいにったのに、テンション120%だったなあ。

じゅわりと芳しい桃の果汁と共に、なぜこの時の記憶がよみがったのか。
お犬様も父上様も、やはり「こちら」に滞在している模様。

世界中に、亡き人が一時的な帰国をする習慣があり、亡き人と囲む料理がある。
自分のそれは桃なのかもしれない。

ま、お犬様が同席してもしてしなくても、桃は最高に美味しいから、食べちゃいますけどね!